海外メディアも大混乱!“sontaku”(忖度/ソンタク)という日本語の落とし穴
2017.4.14
日本のニュースを発信する場所といえば、日本外国特派員協会。
これまで外国報道機関の特派員やジャーナリストに向けて、さまざまな日本のニュースを伝えてきました。
先日も、学校法人森友学園理事長 籠池氏の記者会見が行われましたが、
会見の中で、まさにグローバル・コミュニケーションを問われるこんな一幕がありました。
いつまでも曖昧に説明を続ける籠池氏と、その内容を伝えきれない通訳者。
ニューヨーク・タイムズの記者はこう指摘しました。
記者:「もうちょっとハッキリ答えていただきたいのですけれども…」
これに対し、籠池氏と通訳者はこう答えます。
籠池氏:「安倍首相は口利きはされていないでしょう。忖度したということでしょう。」
通訳者: “I don’t think there is direct influence from Prime Minister Abe. I think that he, that there was a,“surmise,” he read between the lines about what, there was a…”
日本人も聞き慣れない“忖度”という言葉。通訳者(英語ネイティブ)が苦悩しながら言葉を選ぶ中、
突然遮るように流暢な英語で説明を始めたのは、籠池氏代理人の弁護士でした。
代理人弁護士: “I think he is missing a couple of words, what he is trying to say is, when he said he was doing “sontaku”, that something done by people around him, and not by Abe. “sontaku” is not a word that you use by yourself. When you say “sontaku” , Abe is probably, people around, or you know, people who are underlings of Abe. ”
(いくつか言葉足らずだったようですが、籠池氏が「忖度」という言葉で表現しようとしたのは、安倍首相によってではなく、安倍首相の周りにいる人々が、何らかの手を加えたということです。「忖度」というのは自分自身で何かするという時に使われる言葉ではなく、安倍首相の周囲の人間、もしくは子分の人間が何かしたという意味になります)
これを受け、通訳者もこのように補足しました。
通訳者: “Just to add as an interpreter’s note, the word “sontaku” is leading to some confusion in the English translation. There are several different ways to say this; whether it’s “conjecture” or “surmise,” “reading between the lines,” “reading what someone is implying.” So there is not one direct word in English which is what lead to this, just to add some information.”
(通訳からの情報として付け加えますが、「忖度」という言葉が英語通訳で少々混乱を招いているようです。何通りかの言い方がありますが、「conjecture(推測)」「surmise(推測する)」「reading between the lines(行間を読む)」「reading what someone is implying(誰かが暗示していることを汲み取る)」などがそれに当たります。英語で「忖度」を直接言い換える言葉はありません。念のため申し上げました)
(2017年03月24日The Huffington Post引用)
しかしこの努力もむなしく、後日ニューヨーク・タイムズに掲載されたのは、籠池氏が話した内容とは全く異なる以下の記事でした。
* * *
”I believe that perhaps Prime Minister Abe or his wife were reading between the lines“
(安倍首相夫妻は私の行間を読んでくれた)
* * *
“There was some sort of a mutual understanding between us. “
* * *
sontaku= “powers at work behind the scenes“
(2017年03月23日The New York Times引用)
など誤った情報が世界に発信されてしまったのです。
一体なぜこのようなことが起きたのでしょうか?
“忖度”の意味「他人の気持ちをおしはかること、推察」を英語にすると、「conjecture(推測)」、「surmise(推測する)」ですが、それ以上に「日本人ならではの他人の気持ちを察して(特に上下関係間で)コミュニケーションを行う、空気を読む」というニュアンスが含まれています。
通訳者も困り果て、結局“sontaku”(ソンタク)とそのまま英語にしてしまいましたが、このニュアンスを上手く訳しきれなかったのかもしれません。
籠池氏の説明には“忖度”の主語がありませんでした。「籠池氏と安倍首相の意向を役人が忖度した」という意味で言ったのでしょうが、通訳者は「籠池氏の意向を安倍首相が忖度した」と訳してしまいました。もともと“忖度”という言葉には「下位者が上位者の意向なり好みなりを推し量って便宜を図る」という意味があります。今回の場合、文脈から推測すると上位者は安倍首相、主語は下位の人間=役人となるのですが、こういった解釈が英語ネイティブにとっては困難だったのかもしれません。
このように、“グローバルに発信する”ということは、言語をただ置き換えればいいというものではありません。その国ならではの文化や言葉を知り、クリアで誤解を与えない言葉を選ぶ。また主語や目的語を明確に示しながら相手に伝えることが重要なのです。
これからのグローバル社会の中で生き残るには、こういったスキルが必要不可欠なものになっていくに違いありません。