「自分から走り出してみよう」 海外進出のプロが語ったPRマインドを持つことの大切さ――PRカフェVol.5イベントレポート
2019.5.13
GCAIでは「PRカフェ」と題して、海外向けPR/海外進出の専門家をお招きし、さまざまなアドバイスを伺っています。今回のゲストは「海外向けPRプランナー養成講座」の第1講の講義を受け持つ田中秀彦さん。グローバルを目指す企業の支援を行うジェイシーズで海外事業展開・戦略アドバイザーを務めるプロフェッショナルです。「一人ひとりがPR担当だというマインドを持てば、日本のビジネス・海外向けPRに未来は大いにあります」と語る田中さんのトークセッションをお届けします。
「メイド・イン・ジャパン」の良さを伝えたいと志した少年時代
30年くらい前に日本のメーカーに入社し、すぐにベルリンの壁が崩壊した頃のドイツに駐在しました。その後日本に帰って、次に香港、シンガポール、イギリス、――と駐在し、最後はタイ法人の社長に。引退後は20年以上海外で働いたこの経験を後世に伝えたいと思い、アドバイザーとしてさまざまな企業の海外進出の支援をしています。
父親が外交官だったこともあり、少年時代はドイツで過ごしました。「日本人としての誇りを持て」と言われていましたが、当時、60年代後半の日本のブランドの評価は「安かろう、悪かろう」。メイド・イン・ジャパンというと周りは「その安いブランドよりも、ドイツにはこんなブランドがある」と言い放たれていました。だから、いつか日本のブランドをこの国に持ってきて、「こんなにすごいんだ」と伝えたい、そんな目標を小学生の時から持っていました。これだけ聞くとすごく立派に聞こえるけど(笑)、初志貫徹で、その後日本のメーカーに入社したんです。ただ、その頃はもう日本のメーカーが一流ブランドとして知られていましたが。
日本の企業が世界で苦労する「マーケティング力」の弱さ
最近では大手企業のアドバイザーとして仕事をすることも増えました。そこで感じるのは、日本の企業のマーケティング力の弱さです。そのブランドはすでに知られているのだけど、時代が進む中で、そのブランドを育てていく努力が必要だったんじゃないかと思います。
海外にいると“言った者勝ち”なんです。「これができます! あれもできます!」とアピールできる外国人に比べて、日本人は謙虚すぎる印象です。この落差はすごく大きい。それが製品にも結構出ているのではないかと思います。世界的なメーカーの始まりが、品質の高い日本の製品への憧れだった――という話は珍しくありません。それが今では大きく引き離されてしまっている。宣伝やPRについて、日本は大きなビジョンを共有せず、宣伝は宣伝、PRはPRと変に細分化されてしまっているのも原因の一つではないでしょうか。
また、実直すぎる国民性もプラスには働いていません。「黙ってやっていれば、誰かがきっと見てくれる」。派手さが必要かといえば、必ずしもそうではありませんが、やはり、PRして知ってもらわないと誰もそこに共感はしない。そういう点をもっと強化していく、あるいは考えていくのは大事でしょう。
私が新しい駐在員によく伝えていたのが「黙っているだけじゃなくて、下手でもいいから喋ろう」「質問は少なくとも3つは用意しておこう」ということです。簡単なことでもいいから発言するトレーニングをしていく。そうすれば、言語に関係なく、どんどんアピールできるようになります。
海外向けPRといっても、その範囲はとても広い。ですが、結局は「人」なのかなと思います。今回、このイベントに参加していただいた皆さんが学び、何かに気づいてやり方を見直していけば、それだけで良くなっていくはずです。役職に関係なく、企業では一人ひとりがPR担当としてのマインドをもって社内で話し始めれば、周りも変わっていくのではないでしょうか? 自分から走り出すことがポジティブに働く。それがPRだと私は思います。
田中秀彦
株式会社ジェイシーズ 上席執行役員/海外事業展開・戦略アドバイザー
日本のメーカーに35年勤務。日本では海外営業、マーケティング、CS部門に従事。海外駐在は20年を超え、ドイツ、英国、香港、シンガポール、インド、タイにて主にマーケティング部門責任者、社長を歴任。現地法人や生産拠点の立ち上げ、販売網構築、代理店の解消、BPO、リストラ推進など様々な事業を手がける。異なる文化、宗教を背景に、深く目標を共有することで危機的状況を乗り越えてきた経験を、次の世代に伝えたいと考え、2017年よりグローバルを目指す企業支援のためジェイシーズに参画。講演実績にタイ、ドイツ、日本の大学などがある。