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「日本人」の壁を越えて 仏師を撮り、世界から注目される映像作家・関勇二郎が語る「海外PRの方法」

2018.4.11
粗削りの仏像に彫刻刀が当てられ、柔和な丸みを帯びていく。薄明かりの中で手元の仏像を見つめる職人の目が、鈍い光を放つ――。

現在、国際映画祭出品に向けて準備中のドキュメンタリー映画『CARVING the DIVINE(カーヴィング・ザ・ディヴァイン)』は仏師(仏像を専門に作る彫刻家)に長期密着し、知られざる職人の世界を描き出した作品です。手がけたのは米ロサンゼルスを拠点に活動する映像作家の関勇二郎さん。高校時代に映画に魅了された関さんは卒業後に渡米し、アメリカの大学で映像学を専攻。クリエイターとして現地でキャリアを築いた後に、本作の撮影に取り掛かりました。

日本文化を海外に伝えることと、映画監督として自分の作品を海外にPRすること。二つのグローバル・パブリシティを体現し、海外メディアから注目されている関さんに、自分の作品を海外で効果的にPRするための方法を聞きました。

作品の原点は仏像と仏壇に囲まれた少年時代

――今回の作品を作ってみようと思ったきっかけを教えてください。
きっかけは、少年時代にさかのぼります。僕は仏壇店の息子なんです。小さい頃から仏壇や線香、そして仏像に囲まれて育ってきました。家業ですから、仏像が身近なことが当たり前です。この特別な環境の記憶が、『CARVING the DIVINE』の原点です。

映画作りを志したのは自主制作映画を作った高校の時。撮影や編集作業を通じてそのプロセスの素晴らしさを実感し、映像の最先端が集結するアメリカで本格的に学んでみたいと思うようになりました。19歳で留学を決意し、渡米後は現地の大学で映像学を専攻しました。そして、大学卒業後、アメリカで映像にまつわる仕事や勉強を続けていくうちにクライアントのためのコマーシャルやプロモーションビデオだけではなく「自分が作りたいと思うもの」を一度は手がけてみたいと思うようになったのです。

アイデンティティークライシスの先に

ちょうどその頃、僕はアイデンティティークライシスに陥りました。10年以上アメリカで暮らすうちに、だんだんと「日本人」でなくなってしまったのではないかと思います。現地での生活に慣れすぎてしまったんでしょうね。しかし、ずっとこの地で生きていても、決してアメリカ人ではない。日本に帰ると、雰囲気が少し違う。そういう状況の中で、自分が映像作家として提供できるものはどんなものなのか、よく考えたんです。何かを作るのであれば、誰にも真似できないものを作りたい、と。そこで、自分の子どもの頃がすごく特別な環境にあったことを思い出し、「仏師」という日本古来から伝わる仕事をテーマにしてみようと始めてみたのです。

身近な存在がテーマだからこそ海外で発表する

――なぜ、日本ではなく海外で作品を発表してみようと思ったのですか?
もちろん、海外生活が長かったということもありますが、まずはグローバルに認められることで、日本人からも注目を集めることができるんじゃないかと思ったんです。

仏像というのは、日本人にとってあまりにも身近な存在です。近くのお寺に行けば、当たり前のようにあって、拝むことができる。それはとてもありがたいことなのですが、誰もが見慣れたものをテーマにドキュメンタリーを作ったとしても、「ちょっと勉強になったかな」程度の反応で終わってしまう可能性があります。また、キリスト教文化が背景にある西洋に向けて仏像の文化を伝えることはとてもチャレンジングです。つまり、野望が大きかった、ということでしょう(笑)。

日本の文化と自分のコンテンツを海外に伝えるために

――確かに、日本の仏像の文化を海外に正しく伝えることはすごく難しいと思います。仏像や、仏師の世界を日本人以外に伝える上で、関さんが大切にしていることは何ですか?
フィルムメーカーとして語るなら、辛抱強くカメラを回して、何が起きているかを丁寧に捉えていくことを大切にしています。特に、『CARVING the DIVINE』という作品ではストーリーテリングのメソッドで「真実に近いもの」を伝えられるよう心掛けました。

日本人の根底には「恥の文化」があるといわれています。体裁をとても大切にするのは仏師の方たちも同じで、インタビューをしてもなかなか心の中をさらけ出してはくれません。当たり前のことしか聞けないし、腹を割って話しているように見えても、いくつもの“フィルター”を通した言葉しか出てこないんです。だから、本作では筋書き通りになりやすいインタビューを最小限に抑え、映像の力で職人の世界を力強く伝えています。

全体的な視点に立って思うのは、日本では当たり前でも外国人には伝わっていない、細やかな文化の違いを言葉で伝え続けることの大切さ。「日本人はこういう風に振る舞うけど、実はこういうニュアンスがあって、すぐにありのままを話してくれるわけではない」といった背景を説明することが重要です。
――日本人特有の“謙遜”をしていたら海外には思いが伝わらないのでしょうか?
日本では、謙虚に話し、傲慢にならないことが美徳とされています。自分のことを「俺はすごいんだ」という感じでアピールすると引かれてしまうし、誰にも相手にされなくなってしまうと思うんです。でも、海外ではその価値観を180度変えて、「自分はこれだけ頑張っているんだ!」ということを伝えていかなくてはいけない。そうしないと、特に西洋の人に伝えることは難しいと思います。

「日本人」の壁を越えてグローバル情報発信を楽しもう

――『CARVING the DIVINE』で検索すると、ウェブサイトやSNS、YouTubeチャンネルなど海外に向けたさまざまなPRコンテンツが現れます。特に、「Carving the Divine TV」と題する動画シリーズには驚きました。仏像が身近ではない海外の観客に向けて、少しずつ理解を深めてもらう内容だと思います。
分かっていただいてありがとうございます! そういうことなんです。インドで始まった仏教が日本まで来て、いろいろな宗派が生まれて…、という流れは、違う宗教・文化の国で育った人にとっては理解しづらくて当然。そこで、仏教とはどういうものなのかを専門家と共にディスカッションする短い動画シリーズを始めました。まずは視聴者に“初めの一歩”を踏み出してもらってから、少しずつ理解していただきたいと思います。もちろん、ドキュメンタリーを見てもらうことが一番大切ですが、フリーのコンテンツを提供することで皆さまの人生を豊かにしたい、という狙いもあります。

他にも、Twitterやインスタグラム、Facebookなど、さまざまなメディアでPRをしています。ポイントは「楽しむこと」! 自分が楽しくないと、大変すぎて続かないと思います(笑)。
『CARVING the DIVINE』公式ウェブサイトより(https://www.carvingthedivine.com/)
――自分のコンテンツをSNSといったツールも使いながら効果的に、グローバルにPRしていくスキルを身につけるのが、GCAIの講座のコンセプトです。 “グローバル・パブリシティ”の先輩として関さんからGCAIの受講生・修了生をはじめ、これから海外に向けて発信したいと思う人にアドバイスをお願いします。
大切なのは「インディビジュアリズム(個性の発揮)」。つまり、自分は他の人と違う、ということがアピールできないと、海外や外国人には伝えるのは難しいということです。謙虚な日本人にとってはここが一番難しいのではないでしょうか?「自分はこういう人間なんだ! 見てくれ!」とはっきり伝えるようなメンタル・シフトチェンジを遂げなければ、日本で成功していても、海外での成功は難しいと思います。

先ほど述べた僕のSNSについても、読んでいただければ言葉のトーンが日本人向けのものとは少し違うことにお気づきのはずです。「こういうものを作ったんですけど、もし時間があったら見てください」ではなく、もっと自分を大きく見せるようにワードチョイスをしています。「こういうものを作って、自分はすごく誇りに思っているから、見ないと損するよ!」みたいな(笑)。日本でそんな伝え方をしたら、違和感を与えてしまいますよね。でも、海外ではそれができないとせっかく作ったコンテンツに目を向けてもらえないと思います。とても難しいことですが、まずは「日本人」の壁を乗り越えてみましょう。
『CARVING the DIVINE』公式ウェブサイトより(https://www.carvingthedivine.com/)
――『CARVING the DIVINE』の今後の予定を教えてください。
現在、国際映画祭出品に向けて準備中です。『CARVING the DIVINE』のメーリングリストに登録していただければ、出品の進捗や作品の最新情報をお届けすることができます。これもまた、作品をグローバルに伝えるためのプロモーションの一つです。ワールドプレミアとしてリリースするまで、もう少しだけお待ちください。

●『CARVING the DIVINE』メーリングリスト登録フォーム
https://www.carvingthedivine.com/landing-for-email-signup

●『CARVING the DIVINE』公式ウェブサイト
https://www.carvingthedivine.com/

●How To Complete An Innovative Documentary: Strategies from Yujiro Seki, Creator Of Carving The Divine
https://medium.com/authority-magazine/how-to-complete-a-documentary-yujiro-seki-carving-the-divine-7762ef8e2a8a
関勇二郎
せき・ゆうじろう●群馬出身。高校を卒業後渡米し、カリフォルニア州立大学バークレー校でFilmの学士号を取得する。モンテシト芸術学院、ミュージックビデオ制作会社レービス101フィルムを経てカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校Extentionで映像撮影学を修めた後、海外を拠点にフィルムメーカーとして活動している。

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