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「グローバル・パブリシティ」のヒント

“想像力”を駆使したぬいぐるみの旅が世界の人たちを繋ぐ!

2015.10.05
「ウナギトラベル」はぬいぐるみ専門の旅行会社です。代表取締役の東園絵さんは、2010年にサービスを開始。ぬいぐるみたちを連れて旅行し、その様子を写真に収めリアルタイムでFacebookやTwitterなどに投稿するというユニークなサービスは、国内だけでなく、アメリカを中心に世界各国でも人気を集めています。そんな東さんにグローバル・コミュニケーションのために大切にしていることを聞きました。
—— ぬいぐるみの旅行というサービスについて教えてください。
まず、持ち主(ご依頼主)の方から赤坂の事務所に、郵送でぬいぐるみが送られてきます。その際、持ち主の方にお客さま(ぬいぐるみ)の性格やこの旅でしてみたいこと、食べ物アレルギーの有無などについて事前アンケートを書いていただき、これを基にそれぞれのお客さまに合わせた旅のプランを作ります。

旅行中はさまざまな写真を撮り、リアルタイムでFacebookに投稿し、持ち主の方がお客さまを見守ることができるようになっています。現在は約2割が海外からの依頼なのでFacebookには英語と日本語の両方で書きこんでいます。海外からのご依頼は半分がアメリカ、それ以外は欧州が中心で、ドイツ、フランス、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア、スイスなどでしょうか。そのほか、オランダ、イギリス、シンガポール、香港などからの依頼もあります。
—— 海外の依頼主とのやりとりは英語ですよね? 東さんは留学などのご経験があるのですか? 
私は小学校の時に4年間アメリカに滞在して6年生の時に帰国、その後は大学まで日本の学校を卒業しました。就職後は外資系の金融会社に転職し、海外の支店やクライアントとのやりとりや海外出張で英語を使っていました。現在もご依頼主との主なコミュニケーションは、メールかFacebookのコメントですが、海外の方とはどの国の方とも基本的には英語ですね。ご依頼主は、比較的英語が堪能な方が多いのですが、例えばフランスの高校生などネイティブではない人には、なるべくシンプルな英語で書くようにしています。またFacebookは大人だけでなくお子さんも見ているので、やはり分かりやすい英語を書くことを心がけています。
—— 起業当時から海外をターゲットにしていたのですか?
「このサービスを通じて日本の文化やいい所を海外の人に知ってもらいたい」という想いが強かったので、はじめから海外をターゲットにはしていました。“ぬいぐるみの旅”に5000円を払ってくれるのは日本より海外の人だろうと。しかし、実際には公式サイトを作ってTwitterやFacebookでアピールしても思うような反響がなかったので、まずは日本で地盤をつくることにして、主に国内からのお客さまをご案内していました。

海外で火が点いたきっかけは2013年に読売新聞に載った取材記事です。その英語版をみたアメリカの方がブログで紹介してくれたことで、アメリカのABCニュースやYahoo!、ロイター通信など海外メディアからの取材が殺到しました。個人のFacebookなどでのシェアも多く、私の知らないところでいつのまにか広がっていったという印象でしたね。Facebookに投稿する写真には人間が写っていないのでシェアしやすいですし、言葉を話さないぬいぐるみが主役なので、どの国の人にも分かってもらえる面白さがあったのだと思います。

—— 企業や自治体からの問い合わせもあったそうですね。
ある時、長くかわいがられてグレーがかったキティちゃんの旅の写真が新聞に大きく掲載されたことがありました。それを見たサンリオの方からご連絡をいただき、キティちゃんとメロディちゃん(マイメロディ)とのタイアップ旅行が実現しました。また、三重県観光キャンペーンの一貫として世界遺産の熊野古道のツアーを開催し、その神秘的な風景に欧米からも大きな反響をいただきました。その際はアメリカからのお客さま(ぬいぐるみ)もお1人参加されて、日本文化を世界に発信するお手伝いができて本当にうれしかったですね。こうしたサービスをご縁にアメリカのケネディ駐日大使にお目にかかったこともあります。
—— 旅の演出で大切にしていることは何ですか?
コミュニケーションで最も大切なのは、相手の気持ちをお互いに思いやる「想像力」ではないでしょうか?

私はプロのカメラマンではありませんから、“きれいな写真を撮ろう”とは思っていません。むしろ、シュールかつ分かりやすいボケとつっこみどころがある写真とコメントを心がけています。例えば、ぬいぐるみたちが足湯に浸かっているカットでは、わざと足をお湯に入れずに撮るんです。すると「足、浸かってないやん!」「まあそこは大目にみよう」とか書き込みが入って、コミュニケーションが生まれるわけです。
宿泊を伴うツアーの際には100円ショップで買った手ぬぐいでお揃いの浴衣を作ってぬいぐるみに着せることもありました。その後、お風呂場で裸になり手ぬぐいで前を隠すと、いつもは裸のはずなのになぜかとても恥ずかしそうに見えるんですね(笑)。さらに、ちょっとボカシを入れるなど分かりやすいボケを加えると万国共通で笑ってくれて、書き込みがどっと増えます。他にもお寿司屋さんで、ベジタリアンという設定のお客さまがガリばかりを食べている1枚には、「玉子とかっぱ巻きも取ってあげて!」などのツッコミが入ったり(笑)。ちなみに持ち主の方の宗教上の理由で食べられないものもあるので、きちんと調べて配慮するようにしています。また、ぬいぐるみによっては豚や鳥、牛の料理は共食いになってしまうこともあるので「鶏肉は除いてください」とお店の方にお願いすることも。笑いだけでなく、こうした心遣いも必要ですよね。
—— ウナギトラベルのFacebookには日本の文化を学べる投稿も多いですね。
はい。ぬいぐるみを介すことで、日本の文化や歴史など難しいことでもやわらかい印象になって、興味を持ってもらえますから。例えば仙台旅行の時は伊達政宗の黒い眼帯を手づくりし、全員がつけて集合写真を撮りました。そして、「なぜ眼帯?」と疑問に思う海外の方のために、政宗に関する英語のウィキペディアのリンクを添えました。ちなみにハチ公の写真に、物語が分かる英語のウィキペディアをつけた時も反響が大きかったですね。豊川稲荷の初詣の長蛇の列や、事務所でぬいぐるみたちが箱根駅伝を観戦する様子などを写して、季節の風物詩を伝える工夫もしています。
—— 海外の方に特に人気が高いのはどんな写真やコメントですか?
意外だったのですが、海外の方にはガイドブックに載っているような観光地の写真より、自動販売機や地下鉄のホームのベンチなど何気ない日常の風景の方が喜ばれます。高級な懐石料理より、庶民的なもんじゃ焼きやお弁当、私たちが日常食べているようなお菓子のほうが楽しんでもらえると分かってきました。「あのもんじゃ焼きのお店はどこ? いつか日本に行ったら自分も行きたい」といった書き込みも多いですね。

長年先生をしていたという設定の、クマのおばあちゃんのぬいぐるみによる「サバイバルジャパニーズレッスン」も人気でした。このお客さまはリピーターで「旅行の狙いはイケメンをゲットすること。都合の悪い時だけぼける」というキャラクター。そこで、「日本では女性に“おねえさん”と声をかけましょう。“おばさん”はNG」というシュールな授業をしてもらいました。すると「“おねえちゃん”も微妙だね」などいくつものコメントが寄せられました。こういう辞書にはないような生きた言葉や文化が外国の方には響くのだと思います。

逆に日本人でも英語を勉強して英語の書き込みをする人も増えていて、海外の方と直に交流できるのを楽しんでくれているようです。「アメリカでは映画館でみんなポップコーンを食べながらラージサイズのコーラを飲むの? その金額と映画のチケット代はどちらが高いの?」といった素朴な疑問にも、アメリカの方がぬいぐるみの目線で丁寧に答えてくれています。こうして国を超えた交流の輪がどんどん広がっています。
—— リピーターも多いそうですね。
アメリカで日本語を勉強している男の子からお預かりしたマンモスが、帰国後にその男の子とご家族を連れて再来日してくれたことがあります。ツアー中は、マンモスと一緒に持ち主の男の子も日本語を学べるように、小さな黒板を使って「おいしい」「楽しい」など簡単な日本語の勉強を盛り込みました。これで彼はますます日本が好きになり、日本語も上達して自分も日本に行ってみたいと思ってくれたそうなんです。ご家族4人とマンモスで来日し、お父さんがスカイツリーや明治神宮、鎌倉、京都でマンモスを撮影した写真をメールで送ってくれた時はとてもうれしくて、赤坂の事務所に皆さんをご招待しました。ちなみにこの時は「マンモスのぬいぐるみがドアをノックして入ってくると、かつてのツアー仲間たちが大歓迎する」という場面を撮り、Facebook上でもとても盛り上がりましたね。
—— 東さんも想定していなかった面白い反響はありますか?
ファンのみなさんは、旅行そのもの以上に、ぬいぐるみ同士の横のつながりの物語を楽しんでくれます。はじめは恥ずかしそうだったぬいぐるみたちが仲良く助け合っていく姿には書き込みが多いですね。団体旅行にしたのは単にコストの問題だったので、これは想定外でした。例えば、フランスのウシとアメリカのムースが恋に落ちていく演出にした時は、帰国後に国を超えて持ち主同士の交流がスタートしたそうです。それぞれの家に交互にぬいぐるみを送り合ってホームステイさせている様子がFacebookに投稿されてきた時は驚きました。するとその様子をみた彼らの友人のはからいで今度はバレンタインに合わせて2匹が再来日することに! ぬいぐるみの旅からこんな深い交流が生まれるなんて思いもしませんでしたね。
—— 人気の秘密は相手が何を求めているのかを常に考える演出なんですね。
ぬいぐるみはしゃべりません。だからこそ、国や言葉を超えたコミュニケーションが可能な反面、努力なしではただの“お人形遊び”になってしまいます。大切なのは、ぬいぐるみの持ち主が何を求めているのかをきちんと汲みとること。なかには持ち主の方が大きな病気を抱えていたり、亡くなったご家族の代わりに旅を申し込んだりと、さまざまな背景があるので、ただ、楽しく面白くすればいいというわけではありません。例えば、「亡くなったご家族の代わりにぬいぐるみに旅をしてほしい」という場合は、アンケートの中に“過去形”で書いてあったことをすべて“現在形”にして、活き活きと表現して書き込むなどの工夫をしています。
—— 今年は初の海外ツアーも始まり、今後の展開が楽しみですね。
雑誌『ハワイスタイル』のエイ出版社がハワイに構えているオフィスの放送作家さんと共同で今年からハワイツアーがスタートしました。ハワイの良さを日本に伝えたいというコンセプトで、当初の私の想いを逆輸入したようなスタイルとなっています。今後、他の国でもこうした取り組みができたらうれしいですね。
東園絵 あずま・そのえ
小学校の時に4年間アメリカで暮らし、6年生の時に帰国。その後、日本の中学・高校、大学を出て、日本で三和銀行に就職。ドイツ証券を経て、2010年にぬいぐるみ専門の旅行会社「ウナギトラベル」を起業。14年10月、このサービスを物語仕立てで紹介した斉藤真紀子氏と共著『お客さまはぬいぐるみ』(飛鳥新社)が出版された。

ウナギトラベル公式サイト
http://unagi-travel.com/
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