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世界に誇る日本の伝統文化を知る いけばなの体験レッスンをレポート

2015.9.03
真の国際化を目指すなら母国の文化をきちんと知っておきたいもの。そこで今回は池坊のビギナーズレッスンに参加し、初めていけばなに挑戦してきました。クラスを担当するのは、これまで約30カ国の人たちに英語でいけばなを教えてきたという戸祭瑞香子先生です。いけばなを教えてもらいながら戸祭先生に海外での体験についてお話を聞いてみました。
戸祭先生は学生時代にアメリカでホームステイを経験。いけばなを始めたことでさらに海外との交流が深まり、これまで東ヨーロッパ、チェコやマケドニア、スロベニア、中国、インド、アメリカ、イギリス、フランスなど約30カ国の人たちに指導してきました。参加者は筑波研究学園都市の研究者や、国際的なアートイベントに参加したアーティストなど多岐にわたります。
戸祭先生「外国人の生徒さんに教えるほうが、日本人の生徒さんより、説明が多くなりますね。特に質問が多いのは中国とインドの人たちで、いける際の花や茎の角度、花器の知識などについて細かく聞かれます。なぜこの角度や高さがいいのか、花器の大きさとのバランスはどのくらいかなど、綿密に細かく考えながらいける人が多いのです。一方、日本人は“だいたいこんな雰囲気で”と言ってもみんな普通にこなしていきます。これはやはり日本人の曖昧な文化や美学の影響なのかもしれません。

また雨季と乾季しかない国の人は秋のススキや落ち葉など“もの寂しい感じに風情を感じる”という感覚が分からないようです。例えば梅雨の時期には雨の風情で少し花が倒れかけているイメージを作ろうとすると『そういう寂しい感じにはしたくない』と“わびさび”という日本ならではの感覚が理解されないこともあります」
体験レッスンは、花器に剣山を入れてそれが被るくらいまで水を入れるところからスタート。その後、わらび手というハサミの持ち方や切り方といった基礎を教えてもらいます。ハサミには接触面に小さな丸い穴があり、ワイヤーなどを切る時も使えるそう。この日用意されていたのは、キバデマリ、バラ、アスチルベの3種。この3種で木と花と草のイメージを作ります。
枝などの木物を切る時は水を吸い上げやすいよう、斜めにカット。さらに半分に切り目をいれることで剣山に指しやすくなります。
戸祭先生「いけばなは着物で優雅に行うというイメージがあるかもしれませんが、実はかなりの力仕事です。剣山や花器は重いし、大きな作品になると太い枝を切る時は女性でものこぎりなどを使うので握力が鍛えられ、逞しくなります。意外かもしれませんが男性のほうが繊細なものを、女性のほうが大胆なものをつくる傾向があると思います」
まずは木物のキバデマリを配置。それから草物のバラ、アスチルベと植物の種類ごとに段階を追っていけていきます。
戸祭先生「こうした景観美をつくるのがいけばなの世界です。自然の木や花をイメージしながら高さや広がりを考えて、空間を作っていきましょう。ポイントは正面から見て花や木物が交差しないように配置していくこと。そのために幹の方向などを変えたい、少ししなりをいれたいという時には“矯(た)める”という技法を使います。これはいけなばならではの技法で、折れないように幹に慎重に両手で圧力をかけながら少しずつ曲げていくもの。こうして力を加減しながら植物と対話するのもいけばなの醍醐味です」
こうしたバランスを子どもたちに教える時、戸祭先生は“電車の中での人との距離感”の話をするそう。くっつきすぎたら窮屈だからある程度のスペースが欲しいもの。それを花の立場で考えながら、花の間に空間をつくっていくのだそうです。花や葉を1つ加えるだけで全体の印象が全く変わることも。また、花は生きているので蕾が開いてくればまたバランスが変わってきます。それを想定して作るのも楽しみなのだとか。戸祭先生のお話を伺いながら私なりにそれぞれの花たちが綺麗に見える空間を考えてみました。
戸祭先生「茎は一度切ってしまうと元に戻せないのでやりなおしがききません。ですから大人は慎重に少しずつ切っていくのに対し、子どもは直感で思いきりよく切っていきます。出来上がった作品は作者を写す鏡。同じ人でもその時の心境などで全く違うものができあがるのが面白いのです。外国人に教える場合、いけばなを知らない通訳を介すと伝えたいニュアンスがどうしても変わってしまうので、やはり講師が英語で直接指導できるのが望ましいですね。最もこうした技は“見て学べ、見て盗め”というように、ただ言葉が伝わればいいというものではありません。シンプルな英語と身振り手振りだけでも手を取りながら一緒に体験すれば充分に伝わると感じています」
戸祭先生「国によって植物が違うのも面白いところ。モンゴル自治区近くの砂漠のような地域では、その土地にかろうじて生えている植物をなんとかかき集めていけばなをしてきました。また、紅葉したきれいな葉を取ろうとしたら、『危ない!それは漆ですよ』と注意されたことも(笑)。日本には、美しい女性を花に例えて、“立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花”という言葉がありますが、人によって国によって、バラやキクがでてくるなど想い浮かべる花が全く違うのも面白いですね。いけばなは、植物と剣山とはさみがあれば、世界中どこでもできます。“敷居が高い”と構えずにもっといけばなに気軽に触れてほしいですね」
初めてのいけばな、完成です!
枝の高さを残し、ダイナミックな作品となりました。
実際にいけばなを体験してみて、いけばなは、縦、横、斜め、直線、曲線、高さなどのバランスを整えて全体の空間を作りながら植物がもっとも美しく見える景観をつくるものだと分かりました。この奥深い世界に魅力を感じるのは世界共通。国内外を問わず、もっと多くの人たちがいけばなを知って欲しいと改めて感じました。自国の文化を大切にすることは、真のグローバル化への大きな第1歩となるはずです。
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