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日本の伝統文化を世界へ 池坊に聞くいけばなの魅力と新たな取り組みとは?

2015.8.19
いけばなは日本が世界に誇る伝統文化です。2015年4月、京都に本部を置くいけばなの池坊では、初めて単位制でいけばなを学べるビギナーズレッスンを開始し、英語対応のクラスも取り入れました。その背景には2020年の東京オリンピックに向け、いけばなを世界に紹介できる国際人を育成するという目標があるといいます。そこで今回は華道家元池坊、東京事務所所長の千尋誠さんに今回の新たな取り組みといけばなの魅力を取材。さらに現在このレッスンでいけばなを学ぶドイツ人のカタリナ・ディッテさんにもお話を聞きました。
ーーいけばなというと格式高く、敷居が高い印象があるのですが。
千尋さん:そうですね。確かに『着物を着ていかなければいけませんか?』とよく聞かれます。しかし、実際には椅子とテーブルの教室でお稽古をしていますし、同じいけばなでも戦後に生まれた自由花(じゆうか)という現代的な様式もあります。今回、私たちが単位制のビギナーズレッスンを始めたのは、そういった敷居の高さを払しょくし、もっと気軽にいけばなを多くの人に楽しんでいだだきたいという想いからです。生徒さんからは、『海外に行った時にいけばなについて聞かれたのに、何も答えられなくて恥ずかしい思いをした』という声をよく聞きます。そういった方々に、まずは気軽にいけばなに触れてもらい、やがては世界へいけばなの魅力を伝えられる国際的な人材に育ってほしいと考えています。
ーー私も海外でいけばなについて聞かれたら答えられません。いけばなの歴史について簡単に教えてください。
千尋さん:いけばな発祥の地は、京都の中心部に位置し聖徳太子が創建したと伝えられる六角堂(頂法寺)です。室町時代、神や仏に花を手向けたのがいけばなの始まりです。池坊は、その六角堂の住職を代々務めています。初期は床の間に飾ることを前提にしていましたが、現代では畳の部屋が少なくなり、洋間の玄関やイベント会場に飾るなど、時代に応じてその様式は変わってきました。
ーーいけばなとフラワーアレンジメントの違いは何ですか?
千尋さん:分かりやすく言うと、フラワーアレンジメントは足し算の美で、美しく咲いた花で空間を埋めながら作ります。一方、いけばなは引き算の美。蕾や枯れた枝も使用し、花や枝を切り落としながら全体を調和させていきます。中でも江戸時代に大成した生花(しょうか)は、3つの役枝を生ける形式。“数少なきは心深し”としてシンプルで奥深い世界を表現します。いけばなには陰と陽があり、影のある部分と日の当たる場所が共存しているのです。
ーー池坊は海外でも展開されているのですか?
千尋さん:550年の歴史の中で、日本に400支部、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ各国、オーストラリア、南米アフリカ、アジアなど世界にも100以上もの支部があります。アメリカ(約30カ所)やブラジルでは古くから日系人の人たちが華道を伝えてきました。各国の支部には日本から講師を派遣し、現地の指導者の研修もしています。また各国の日本大使館主催によるイベントの中で、いけばなの展覧会や体験教室を開き、現地の方にも楽しんで頂いています。タイでは王女さまが参加してくださったこともありました。
ーーいけばなは世界の人たちに愛されているんですね。
千尋さん:最近では、2013年度、2014年度のミスインターナショナルの各国代表の皆さんが全員でいけばなを体験するというイベントをサポートしています。日本国内でも観光旅行客の皆さんから“いけばなを1日体験したい”という声が増えており、先日も中国からの15人ほどの団体に体験レッスンを行いました。今後も国内外に関わらず、いけばなを幅広く広めていきたいですね。
4月から始まったビギナーズレッスンでは外国人の方もいけばなを学んでいます。つづいてドイツから来日し、昨年9月から池坊でいけばなを学んでいるカタリナ・ディッテさんにお話を伺いました。
ーーいけばなをはじめたきっかけを教えてください。
カタリナさん:11年前、茨城の高校の留学生として初めて日本にきました。その時、ホストファミリーの家の玄関に飾られていたいけばながとても綺麗で惹きつけられました。実はそのホストファミリーのお母さんが池坊の先生だったんです。それで私もなんどか教えてもらううちにすっかり魅了されてしまいました。
講師の茅野真弓先生は、全米にある池坊の支部で現地の指導者の研修を行うベテラン。この日はグラジオラスを使って初の生花(しょうか)に挑戦です。これまで学んできた自由なスタイルとは違い、きっちりとした型や約束事を覚えていく技法はとても難しかったそうです。
ーーいけばなのどんなところに惹かれますか?
カタリナさん:花をいけていると、とても集中できて心が安らぎます。仕事などで疲れていてもまるでヨガや瞑想をしているようにリラックスできるんです。ドイツのフラワーアレンジメントでは、たくさんの華やかなお花を使って丸く作るものが多くてだいたい形が決まっています。でもいけばなは少ない数のお花で、その1本1本のどれもが美しく見えるようにバランスを整えながら全体の空間を作っていきます。ですからその中に自分の心境や想いを入れることができるし、さまざまな形を作ることができるのです。初めて挑戦した時は迷ってばかりいて3時間くらいかかってしまったほど(笑)。それだけ、奥が深いものです。

はじめは用意されたお花をすべて使おうとしていましたが、今は、少なくてもシンプルに完成できるようになりました。また、より自然な姿に近い美しさもいけばなならではの魅力だと思います。教室でいけてからまたお花を持って帰り、自宅で別の花器にいけなおして、その後も何日か楽しめるのもうれしいですね。外国人の友人も私の自宅にあるいけばなを見て『とても素敵な趣味だね』と言ってくれます。やはりこの魅力はどの国の人にも共通なのだと思います。
ーー今後もいけばなを続けていきたいですか?
カタリナさん:私の夢は、ドイツの人たちにいけばなの素晴らしさを教えてあげること。なぜなら、私が日本から帰国した時、もっといけばなを学びたかったのに、教えてもらえる場所が身近になかったからです。日本の高校で始めた剣道や居合道はドイツでもクラブに通って続けられた(※剣道は初段)のに、いけばなができなかったのはとても残念でした。ですから、今日本で再びいけばなを学べるのは本当にうれしい。

4月から英語対応が可能なクラスが開講されたのも外国人には、とてもいいと思います。私の場合はほとんど日本語で大丈夫ですが、時々こまかいニュアンスが分からない時があります。そんな時、先生に英語で教えてもらい、納得できるのはとてもありがたいですね。こうしたシステムがあれば、私の家族や友人が来日した時も気軽にいけばなを体験してもらうことができると思います。いけばなはたとえ、1回体験しただけでもその素晴らしさを理解してもらえるはず。『日本の文化を知りたい』という外国人がいたら、私は迷わずいけばなを勧めます。もっともっと世界中の人にいけばなの魅力を知って欲しい。そしていつかは私もドイツでいけばなを教えていけたらと思っています。
池坊 公式サイト
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